大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)951号 判決 1970年2月10日
被告 相互信用金庫
理由
一、原告主張一の事実は債権差押命令が被告に送達された日を除き当事者間に争がなく、《証拠》によれば右送達の日は昭和四二年八月二四日であることが認められる。
そして原告主張二の事実も当事者間に争がなく、《証拠》によると、浦野吉一は第一次仮差押当時被告西支店に被告主張(一)(5)の定期積金をしていたことが認められる。
二、まず第一次仮差押の効力について検討する。
定期積金(信用金庫法第五三条第一項第一号)は被告のいうように金融機関が期限を定めて一定金額の給付をすることを約し定期に又は一定の期間内に数回に金銭を受入れるものであり、金融機関が預入の期間を定めて金銭の預入を受ける通常の定期預金とは著しく性質を異にするから、第一次仮差押決定に被差押債権として表示された「定期預金債権金一、七八〇、〇〇〇円」が(一)(1)ないし(5)の定期積金債権を指すものと解するのはいささか困難であるが、この点はさて措き、右表示が原告の主張するように定期積金債権を指すものと解するとしても、その仮差押決定が被告に送達された当時浦野の被告西支店に対する定期積金は(一)(1)ないし(5)の五口あり、その合計額が金一、七一四、三〇〇円であつたことは前記のとおりであるから、第一次仮差押決定が被差押債権として掲げる「浦野の被告(西支店扱)に対して有する定期預金債権金一、七八〇、〇〇〇円の内金六〇〇、〇〇〇円」という表示によつては、右五口の定期積金のうちいずれの積金がどのような割合で仮に差押えられるのか不明であつて、被差押債権を特定したものということはできない。したがつて、第一次仮差押は(一)(1)ないし(5)の定期積金債権に対し仮差押の効力を生じないものというほかはない。
三、次に第二次仮差押および債権差押の効力について検討する。
浦野の被告西支店に対する定期積金の一部が社会保険事務所から差押えられたこと、昭和四二年一月五日浦野の被告西支店に対する定期積金を解約しその返還債権の一部と被告の浦野に対する債権とを相殺決済し、前者の残金九七二、一六四円を別段預金としたことは当事者間に争がない。そして《証拠》によると、右別段預金は(二)(1)金一四四、七六二円と(二)(2)金八二七、四〇二円の二口にわけて預金され、(二)(1)は同年一月九日右社会保険事務所に支払われたことが認められる。
さらに浦野は従前被告西支店に当座預金を有していたが、昭和四一年八月三一日解約(預金額一一二円)したことは当事者間に争がなく、《証拠》によると、同日右金一一二円を(三)別段預金にしたことが認められる。
そうすると結局第二次仮差押当時浦野は被告西支店に対し(二)(2)と(三)の二口の別段預金を有し(その預金債権は従前の定期積金債権および当座預金債権とは別個の債権である)、その別段預金の合計額は第二次仮差押決定が掲げる被差押債権の額を超えることが明らかである。したがつて、原告主張のとおり右別段預金が第二次仮差押決定において被差押債権として表示されている「普通預金」に当るとしても、その決定は第一次仮差押について述べたと同様の理由により、被差押債権の特定に欠けるものといわざるをえない。したがつて第二次差押もまた別段預金債権仮差押の効力を生じない。
さらに第二次仮差押から債権差押までの間に右(二)(2)と(三)の二口の別段預金に変動のあつたことを認むべき証拠はないから、債権差押も右と同一の理由により、被差押債権の特定を欠き、差押の効力を生じないものというべきである。
三、よつて原告の請求をすべて棄却